最新パリレポート L'rapport de Paris-リアルなパリの情報をフリーライターの加納さんがお届けします-

Date:2012.11.26

Vol.56 | パティスリー「ルノートル」の“ビュッシュ・ド・ノエル”

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フランスのパティスリーを代表する一軒「ルノートル」。創業者のガストン・ルノートルは、地元ノルマンディーで最初の店を開いた後、1957年にパリ1号店をオープン。フレッシュなお菓子作りでパティスリー界に革命をもたらし、現代フランス菓子の礎となった。「ルノートル」は、今では世界11カ国で展開。
フランスはパリ14軒、南仏に2軒の店を構え、イベントやパーティーなどの仕出しでも第一人者だ。

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2009年に惜しまれつつこの世を去ったガストン・ルノートルの精神は、“革新を!しかし伝統も大切に!”。その精神は今でもメゾンの基本理念になっており、今では普通のパティスリーではめったに見かけなくなってしまったような古典菓子から、毎年菓子&惣菜合わせて300種ほども発表される新作まで、実に柔軟で幅広い商品開発を行なっている。

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そんなメゾンのエスプリを最も感じられるテーマのひとつが“ビュッシュ・ド・ノエル”だ。ご存知、クリスマスの宴にいただく薪型のお菓子。「ルノートル」では、ごく普通タイプのビュッシュも提案しているが、1992年から毎年クリエーターと組んだ創作ビュッシュを披露している。
初年度のソニア・リキエルから始まり、ユベール・ド・ジバンシーやフィリップ・スタルク、カール・ラガーフェルドなどを経て、2011年はイラストでおなじみのサンペ。デザイナーの個性あふれたオブジェのように美しい(そして味のおいしさもしっかり追求した)特別仕立ての高価なビュッシュは大人気。毎年800~1000個が売れるそうだ。

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その「ルノートル」クリエーター・コラボレーション・ビュッシュの回顧展が、9月、パリ・ファッション・ウィークの時期に合わせて開催された。毎年、その年のビュッシュを見ることはあっても、10あまりのビュッシュを(保存が効くようにつくられたもの)一度に見られる機会は初めて。お菓子好きはもちろん、ファッション・ピープルたちの好奇心も買い、1週間の会期中、会場となったシャンゼリゼの「パヴィヨン・ルノートル」はにぎわった。

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「今でこそファッションクリエーターとコラボレーションを行なうパティスリーは多々ありますが、当時は皆無。1992年ソニア・リキエルとのコラボを発表したとき、業界は驚き、ぎょっとし、同時にジェラシーもあったそうです」というのは「ルノートル」の統括シェフ、ギ・クレンゼー氏。料理と惣菜・シャルキュトリー部門でMOFを受賞するという偉業を成し遂げた人物だ。
まずクリエーターがデザインやアイディアを出し、それを「ルノートル」のチームが菓子という食べられるものに体現していくアプローチ。依頼を出すクリエーターはみな食いしん坊でこのパティスリーのファンばかり。刺激的かつ友好的なアプローチが毎年展開されるという。

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一番難しかったのは、ロリータ・レンピカとのコラボだったそうだ。すべての材料をBIOにしたいというクリエーターの意向で、アーモンド粉を決めるだけで20種もの試作、色もすべて、野菜やスパイスなどでナチュラルに施した。
通常3ヶ月ほどの開発期間を取るが、ケンゾーとのコラボは2日間というスピード完成。クリスチャン・ラクロワは、出身の南仏を意識した南仏クリスマスの定番"13種のデザート“や、この土地オリジナルの布モチーフをベースに新たなデザインを起こすなど、食べるのがあまりにもったいないようなオブジェ的ビュッシュでチームを感動させた。
一番売れたのは?という質問の答えは、フィリップ・スタルク。四角形に木の模様をあしらった、シンプルプリミティフな作品だった。

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そして今年、2012年のビュッシュは空間デザイナーの巨匠、ジャン=ミシェル・ウィルモットに委託。建築家らしい、建物や屋根のアーチなどを思い起こす構築美のある作品は、ショコラ&ベリーにスポンジ生地とババ生地。赤い果物のソースが添えられる。
「毎年、新たな歴史を刻んでいるコラボレーション・ビュッシュ。その歴史の創造に参加するのは非常にエキサイトで幸せなことです」とクレンゼー氏。「ルノートル」の伝統と革新に満ち溢れた取り組みが今後も楽しみだ。
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加納 雪乃 Yukino Kano

フランスの食文化を専門とする、パリ在住のフリーのライター兼コーディネーター。インターネットでフランスのレストランについての情報を発信し、レストラン選択のアドヴァイスなどを提供。

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