最新パリレポート L'rapport de Paris-リアルなパリの情報をフリーライターの加納さんがお届けします-

Date:2011.02.14

Vol.35 | 鶏のビューティー・コンテスト

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フランスには、鶏のビューティー・コンテストがあるのを、ご存知だろうか?

フランス中東部、南ブルゴーニュと北ローヌ・アルプそして西ジュラにまたがるブレス地方。この土地は、湿気が高くて沼地が多く、渡り鳥が多く逗留する場所であり、カエルの産地でもある。そこはまた、フランスきっての、つまり世界で一番美味しい家禽と誉れ高い“ブレス鶏”の生産地だ。

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チーズやワインでおなじみの、AOC(原産地統制名称。今後はEUの定義にそって、AOPと呼ばれるようになる)の評価を持つ、唯一の家禽である“ブレス鶏”。フランスには、ククー・ド・レンヌ、ジョーヌ・ド・ランドなど、いくつかのブランド鶏が存在するが、ヴォライユ・ド・ブレス(ブレス鶏)は他ブランドの鶏と一線を画する、鶏の王様的存在。多くの3つ星レストランのメニューに載り、日本でも高級フランス料理店で時折その名を見かけることがある。
ブレス鶏と総称される家禽の内訳は、プレ(若鶏)、プラルド(肥育鶏)、シャポン(去勢鶏)、そしてダンド(七面鳥)。中でも、プラルドとシャポンは、フランスのクリスマスの食卓に欠かせない冬のご馳走家禽として人気が高い。

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広々とした屋外で、4~8ヶ月間に渡り豊かな土の中の虫などを食べて育つ自然体の鶏は、出荷直前には小屋の中で運動をせずにシリアル類と乳製品をたっぷり食べて、筋肉がついて硬く引き締まった肉を和らげる。プラルドとシャポンは、絞めたあとに身を布で密封し、肉をさらに柔らかく仕上げる工夫もされる。実に手間隙をかけて育てられた最上の鶏なのだ。

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そんなブレス鶏をテーマにしたコンクールが、毎年12月、ブレス地方の4つの町で開催される。“レ・グロリユーズ(栄光)”と呼ばれるコンクールは、まさに鶏に栄光、栄誉を捧げるコンクール。コンクールの評価規定は、実は味ではなく、姿。
プレ、ダンド、その他ホロホロ鳥や鳩、カモもずらりと並ぶが、身を密封されて熟成がなされたプラルドとシャポンが、このコンクールの主役だ。身を包んでいた布をほどかれたプラルドとシャポンは、アーモンドやラグビーボールを彷彿させる美しいオーバル型。その形の美しさ、きめの細かさ、色の白さなどが、評価の基準となるのだ。
味ではなくて美しさ!?と思うかもしれないが、形の美しさ=十分な脂肪、色の白さ=上質な飼料、といったように、形の評価が実は味の評価にも繋がっている。実際、シンプルに焼いた鶏の味を見る小規模なコンクールも同時に行われいるのだが、高い評価を得る生産者は、姿を評価する“レ・グロリユーズ”でも味を評価するコンクールでも名前がよく挙がる。

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街ごとに日を代えて一週間にわかって繰り広げられる“レ・グロリユーズ”。各会場では、早朝5時くらいから生産者たちが集まり始め、自慢の鶏を並べていく。一羽だけすばらしいできばえの鶏があってもNG。4羽~6羽のセットで出展し、その全てが、形も色も大きさも揃っていて美しい、というのが大切な評価点なのだ。
8時には審査員による評価が行われ、表彰式。その後、一般の人々に会場が開かれ、人々はクリスマスのご馳走用に、と、コンクールに並んだ何百羽もの家禽を買い込んでいく。もっとも、優秀な生産者の鶏は、あらかじめパリや近郊の名レストランに押さえられていることも多い。とはいっても、初めて高評価を得た隠れた名生産者の鶏を買うチャンスもあり、多くの人々がつめかけ、クリスマスの主役ご馳走食材を仕込むのだ。

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最も規模が大きいブール・カン・ブレスのコンクール会場には、土地の名物ワインやその他の食材をたっぷり並べた屋台が並ぶスペースもあり、昔ながらの伝統的な歌や踊りが披露されたり、鶏の布詰めのデモンストレーションが行われたりと、賑やかで楽しい雰囲気に包まれる。また、ルーアンのコンクールを覗くなら、ぜひ、この街のスペシャリテお菓子である、“コルニョット”を味わって欲しい。ブリゼ生地の上にシュー生地を乗せて焼き上げた、ヴィエノワズリー系のお菓子。フランス人もほとんど知らない、この街特有のお菓子で、街中のパティスリーやブーランジュリーの店頭を飾っている。

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フランス人の食に対する情熱と好奇心にはいつも頭が下がる思いがするが、世界にその名を誇るブレス鶏に捧げられた“レ・グロリユーズ”は、規模の上でも注目度の上でも、食に関する祭典のトップクラスに位置するイベント。
コンクールで美しき鶏を目で、それぞれの街の実力派レストランでブレス鶏の美味しさに舌鼓を打つ。12月、クリスマス前の美味しく楽しいイベントだ。

Information-レポートに出てきたお店などを紹介します。

http://www.glorieusesdebresse.com/
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加納 雪乃 Yukino Kano

フランスの食文化を専門とする、パリ在住のフリーのライター兼コーディネーター。インターネットでフランスのレストランについての情報を発信し、レストラン選択のアドヴァイスなどを提供。

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