最新パリレポート L'rapport de Paris-リアルなパリの情報をフリーライターの加納さんがお届けします-

Date:2008.05.01

Vol.2 | 2月バゲットコンクール

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バゲットはパリのパンだ。他の地方でももちろん作られているが、パリでの消費量が多く、もっともパリらしいパン、として捉えられている。そんなバゲットをパリ市はとても大切にしており、1994年から、市が主催するバゲット・コンクールが開かれている。
例年は3月に行われるコンクールだが、今年は地方選挙に重なるため開催時期を少々前倒しにし、2月12日の午後に、パリ及び近郊県のブーランジェ・パティシエ職人商工会議所で開催された。
今年は143人が参加。参加者は当日午前中に、バゲットを2本会場に届ける。規定サイズは、長さ60センチ以上、重さ250〜300g。ナンバリングされてテーブルにずらりと並んだバゲットは、しっかりと焼き色をつけたものが多勢。パリジャンはいまだに白パン信仰が強く、バゲットを買うときに「焼が浅いものを」とオーダーする人が少なくない。そんな現状があるにもかかわらず、コンクールではきっちり焼き上げたものがそろったあたりに、よいバゲットと評価されるものと、一般的に買われているバゲットの間にある程度の差があるのが見て取れる。実際、ブーランジュリーによっては、焼き色も薄めで中味も白味の強い普通のバゲットと、こんがり焼き色に黄味の強い昔ながらの粉を使った伝統的バゲット、2種類のバゲットを作っているところも少なくない。コンクールに集まるバゲットは、伝統的なものが主流だ。

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16人の審査員は、前年度優勝のアルノー・デルモンテルをはじめとする歴代優勝者、パリの名ブーランジェ、ジャン=リュック・プージョランを筆頭に、高級ホテルのシェフ・ブーランジェ、パン職人協会関係者、市の関係者、パンガイド著者、ジャーナリストら16人。3チームに別れ、40本あまりのバゲットを予選審査。各テーブルでベスト10を選んだ後、決勝審査が行われた。
審査項目は、見た目、焼き加減、味、香り、クラムの気泡状態、の5つ。各4点の20点満点。

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コンガリ焼かれたバゲットたちの、見た目の差はそれほどつかない。しかし、バゲットを縦割りにして中味を一目観た瞬間、気泡のよしあしの差が歴然。細かな気泡が整列したバゲットは、その気泡の悪い状態から想像するとおり、香りも味もいまひとつ。しかし、不規則で大きめの状態のよい気泡を持つものは、その見た目から期待するとおりのよい味&香りのものもあれば、香りは全く立たないが味は悪くない、香りはまあまあだが味がだめ、と、見た目を裏切るものが少なくないのが面白かった。縦にナイフを入れてスライスしたバゲットを手に持って立てた瞬間、くたっと曲がってしまうようなコシのないバゲットまであり、審査員同士で苦笑い。
小麦粉、水、塩だけで作られるシンプルなパンだが、味も香りも実に千差万別。食べ飽きることもなく、味のマンネリ化を感じることもなく、バゲットの奥行きというか深さをしみじみ感じられた数時間であった。

上位結果は以下の通り。
1位 アニス・ブアブサ  
Au Duc de la Chapelle 32-34 rue Tristan Tzara 75018 01 40 38 18 93
2位 ファブリス・ポティエ
Fabrice Pottier 231 rue de Vaugirard 75015 01 43 06 14 83
3位 モルガン・ガンティエ
Maison Gantier 2 rue Corot 75016 01 42 15 14 41

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アニス・ブアブサは、現在28歳の若手ブーランジェ。チュニジア出身。高校在学中の企業研修でブーランジェに赴き、パンの世界に魅了された、という。2004年、24歳という若さで日本の重要無形文化財に当たるフランス最優秀職人(MOF)の称号を獲得。2005年に、こちらもMOF職人だった名ブーランジェ、ティエリ・ムニエの店を引き継ぎ現在に至る。バゲットコンクールは、一昨年7位、昨年3位と常に上位にランクされていて、今年は満を持して、という感じの優勝となった。 レシピをマニュアル通りに実現するのではなく、その日その日の生地の状態や焼き色をきちんと目や手で確かめながらパンを作るのが大切、とブアブサ。 職人魂がしっかり閉じ込められた彼のバゲットは、パリの街外れという立地の悪さにも関わらず、味見する価値がある。

Information-レポートに出てきたお店などを紹介します。

▼ アニス・ブアブサ
Au Duc de la Chapelle 32-34 rue Tristan Tzara 75018 01 40 38 18 93
▼ ファブリス・ポティエ
Fabrice Pottier 231 rue de Vaugirard 75015 01 43 06 14 83
▼ モルガン・ガンティエ
Maison Gantier 2 rue Corot 75016 01 42 15 14 41
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加納 雪乃 Yukino Kano

フランスの食文化を専門とする、パリ在住のフリーのライター兼コーディネーター。インターネットでフランスのレストランについての情報を発信し、レストラン選択のアドヴァイスなどを提供。

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