2015.6.22 update
vol.87
“フランス伝統バゲット”の称号を獲得したレトロドールバゲット
パンの国、フランス。フランスのブーランジュリーには多種多様なパンが並ぶが、中でももっともポピュラーなものがバゲットだ。フランス、特にパリのシンボルとしてもよく利用される。
ポピュラーとは言っても、1970〜80年頃には、廉価で低質な工場製品が多く出回り、バゲット暗黒時代だった。そんな状況を憂い、高質なバゲットを誕生させようと、バゲット用の優れた粉の研究に取り組んだのが、19世紀初めに誕生した製粉会社「ヴィロン」だ。当時の社長フィリップ・ヴィロンが1986年から無添加の粉の開発に着手し、87年に質のよいバゲットに適した粉が欲しいという顧客のブーランジェのリクエストも受けて研究を重ねて、90年、“レトロドール”粉を完成。フランスで初の、無添加小麦粉の誕生だ。
主食であるにもかかわらず存在価値は薄く、腹を満たすためのもの、と捉えられていたバゲット。それを、ワインやチーズなどと同じように、喜びを持って味わうべきものであり、食卓の主役の一員になりうる、と信じて開発された“レトロドール”。開発当時わずか10人前後だった顧客は、25周年を迎えた今年には、パリを中心にフランス、そして海外を含め600人以上にもなった。
93年に、フランス初の“フランス伝統バゲット”の称号を獲得したレトロドールバゲット。その特徴は、キャラメルの香りがあり、こんがり黄金色に焼かれたクルートはつややかで薄くパリッとしており、内側はクリーム色で大小の気泡が不規則に並び、味わいは深みのある小麦粉の風味のなかにハシバミの味わいを感じる。その質の高さは、ほぼ毎年のように“パリ市バゲットコンクール”の優勝バゲットに選ばれていることでもよく分かる。
良いバゲットは良い粉だけでは作れない。作り方も大切だ。「ヴィロン」には5人の“レトロドール”指導者がいて、小麦の名産地ボース地方はシャルトルにある本社に顧客のブーランジェらを招き、もしくは各地のブーランジュリーまで出向いて、レトロドールバゲットの作り方を指導し、粉が持つ魅力を最大限発揮させた、美味なるバゲットになるよう熱心なフォーメーションを行っている。
現在7代目社長のアレクサンドル・ヴィロンが率いる名門製粉所は、来年2016年に創業200年を迎える。フランスの美食を代表するパンの美味しさを、これからも熱心に啓蒙し続けていくだろう。