2015.4.13 update
vol.85
バゲットの価値を守り、高める"パリ最優秀バゲット・トラディショナル グランプリ"
1994年に誕生した、“パリ最優秀バゲット・トラディショナル グランプリ”。工場製品の質の悪いバゲットが横行した70〜80年代を受けて、伝統的な(=トラディショナル)バゲットの魅力を啓蒙しよう、と始まったコンクール。優勝賞金4000ユーロ(約55万円)、優勝者のバゲットは、一年間、大統領官邸御用達という栄誉を与えられることもあり、年ごとに注目度が高まり、毎年、コンクールの結果は大きくテレビや紙面のニュースで報道されている。
21回目となる2015年のコンクールは、3月26日に開催された。
今年は、231店がエントリー。これは、パリのブーランジュリーの約25%の数にあたるそうだ。規定は、長さ55〜70センチ、重さ250〜300g、粉1kgに対する塩分量18g以下で、添加物などを使用しないバゲット。
参加者は2本のバゲットを当日13時までに、会場へ持参。店名や参加者名の情報を封筒に入れて同時に提出する。
長さと重さのチェックを経て(ここで、今年は73本ものバゲットが規格外になった)、審査の開始。
審査員は、15名。過去の優勝者やパン業界の人々、大統領官邸料理長、ジャーナリスト、さらに抽選で選ばれた一般市民らから構成される。
審査員は5名ずつ3組に分かれ、まずは、それぞれの組に割り振られた約50のバゲットを一次審査。審査項目は、外観、焼き、内部の白い部分、香り、味の5項目で、各4点の20点満点。ここで各組から上位約10本が選ばれて2次審査へ。2次は、他の2組の審査員達が1次審査で上位に選んだ20〜25本を審査する。
見た目や香り、味、ともに、かなりはっきりした優劣があり、ブーランジェの実力がピンキリだというのが明らか。
面白かったのは、“おいしいけれど、バケット・トラディショナルらしくない”というものがいくつかあったこと。同席したプロのブーランジェ審査員たちによると、小麦粉以外の粉を混ぜたり、ひょっとしたら蜂蜜なども加えているのでは?と。
美味しさを追求するのはもちろん正しい、が、バゲット・トラディショナルのコンクールである以上、その定義に忠実でないといけない、と、このジャンルのバゲットには厳しい点数がついた。
今年の優勝者は、パリはもとよりフランス各地、日本や中国、ロシアまで、多くの店舗を構える、ミシェル・ガロワイエが創業した「ル・グルニエ・ア・パン」の、アベス店の店長ジブリル・ボディアン(Djibril Bodian)。2000年にもグランプリに輝いた超実力派だ。一度優勝するとその後4年間は出場できない。その意味で、ボディアンは2度連続優勝という快挙を果たしたことになる。
パンはフランス人にとって、日本人にとっての米と同じで、毎日欠かさず食べるもの。そしてバゲットは、パリを代表するパン。その価値を守り、高めるためにスタートしたコンクール。今では、パリの一大イベントとして見なされるほどの注目を浴び、その成果は確実に出ているようだ。